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中国のサプライヤーに前払金を支払ったものの、納期が何度も延期され、返金の約束後に連絡が途絶えました。契約にはHKIAC仲裁条項があるため、契約書と送金記録をHKIACへ送り、直ちに返金を求めようと考えています。
しかし、すぐに提出すべきではありません。
仲裁通知は手続を開始できますが、誤った被申立人、曖昧な仲裁条項、損害の二重計上、送達不能な住所を修正してはくれません。まず条項と当事者を確認し、損失を判断可能な請求に整理し、証拠と資産情報を結び付けたうえで、仲裁通知の提出、費用納付、同時送達へ進みます。中国本土の資産が移転されるおそれがある場合は、保全資料も並行して準備します。
まずHKIACが管理する紛争か確認する
契約に「HKIAC」という文字があるだけでは足りません。紛争解決条項全体から、次の点を確認します。
- HKIACが仲裁を管理すると明記されているか
- 仲裁地が香港か
- どの版のHKIAC Rulesが適用されるか
- 仲裁言語は何か
- 主契約と仲裁合意の準拠法は何か
2024年HKIAC管理仲裁規則HKIAC | Hong Kong International Arbitration Centre2024 Administered Arbitration Rules - HKIAC | Hong Kong International Arbitration Centrehttps://hkiac.org/wp-content/uploads/2025/11/HKIAC_2024_Rules_05.mp4 The 2024 HKIAC Administered Arbitration Rules may be viewed in PDF format through the link…hkiac.orgは、当事者の別段の合意がない限り、原則として2024年6月1日以後に仲裁通知が提出された事件に適用されます。仲裁地の合意がなければ香港が原則となり、手続言語が決まる前は英語または中国語で連絡できます。
仲裁地は監督裁判所、手続法、中国本土での保全利用に関係します。言語は翻訳、代理人、仲裁人の費用に直結します。
基本契約、PO、PI、品質合意、追加注文に異なる紛争条項がないかも確認します。基本契約がHKIAC、後のPOが中国の裁判所を指定する場合、全請求を一つの仲裁へ入れられるとは限りません。
仲裁条項は主契約から分離して扱われます。 主契約の無効主張だけで仲裁条項が当然に無効になるわけではありませんが、代金を受領または出荷した関連会社が当然に仲裁合意へ拘束されるわけでもありません。
Term 分離可能性の原則
UNCITRALモデル法第16条を実施する仲裁条例(Cap. 609)第34条により、仲裁条項は主契約の他の条項から独立したものとして扱われます。Cap. 609条文(香港電子法令)www.elegislation.gov.hkHong Kong e-Legislationwww.elegislation.gov.hk
法律論より先に正しい被申立人を特定する
見積書、PI、送金先、実際の工場がそれぞれ別会社という取引は珍しくありません。提出前に、誰が契約を締結または行為により受け入れ、代金を受領し、生産・納品・是正・返金を約束し、執行可能な資産を保有するのか確認します。
中国本土企業については、登記上の中国語社名、統一社会信用コード、営業許可証、社印、口座名義、登記住所を照合します。Alibabaの店舗名、英語商号、担当者の署名だけでは、誤った会社を被申立人とする危険があります。
関連会社が代金を受け取った場合も、受領代理人、共同契約当事者、保証人、独立した取引主体のいずれかを分析します。株主が同じという理由だけでグループ全社を仲裁へ加えることはできません。
「返金しない」を金額化できる救済へ変える
仲裁通知には紛争の一般的性質、金額、求める救済を記載します。例えば、未納品分の前払金返還、代替調達の合理的差額、不適合品の検査・手直し・処分費、契約または準拠法に基づく利息、仲裁費用と合理的な弁護士費用、具体的に執行可能な納品や金型返還などです。
各項目に金額、通貨、対象期間、契約上または法的根拠、証拠を結び付けます。返金と代替調達差額で同じ損失を二重に補填することはできません。利息も開始日、利率、根拠を示します。
勝訴時に資産が残るかという事業判断も必要です。送金記録、工場所在地、持分、設備、在庫、売掛金の情報は、仲裁に投資する価値と保全の要否を左右します。
請求と証拠を一つの対照表で結ぶ
仲裁通知を書く前に「事実・請求・証拠」の表を作ります。
契約関係。 基本契約、PO、PI、見積り、仕様、サンプル承認、追加合意、社印、権限資料。
支払と履行。 送金記録、受領確認、請求書、生産進捗、納期、船荷証券、通関、検品、試験記録。
違反と損失。 催告、延期・返金の約束、拒否理由、代替見積り、手直し・保管費、損害軽減措置。
電子通信。 メール、WeChat、WhatsApp、プラットフォーム上の会話を、アカウント、日時、添付、前後関係とともに保存します。有利なスクリーンショットだけを残さないでください。WeChat証拠保全ガイドも参照できます。
HKIAC Rulesでは、依拠する事実の立証責任はその当事者にあり 、証拠の採否、関連性、重要性、証明力は仲裁廷が判断します。通知段階で事件全体を立証する必要はありませんが、提出後に証拠の断絶が自然に補われることもありません。
Evidence 立証責任:第22.1条
2024 Rules第22.1条は、各当事者が依拠する事実について立証責任を負うと定めます。証拠の採否、関連性、重要性、証明力は同条により仲裁廷が判断します。2024 Rules(HKIAC)hkiac.orghkiac.org
仲裁通知に必要な事項
2024 Rules第4条 により、仲裁付託の申立て、当事者と代理人の連絡先、仲裁合意、関係契約、紛争の性質と金額、救済、1名または3名の仲裁人に関する理由付き提案、候補者または指名、第三者資金提供の開示、被申立人への同時送達確認などが必要です。
Statute 第4条:記載事項・登録料・補正
第4.3条が必要な記載事項を列挙し、第4.2条はHKIACの受領時を開始日と定めます。定められた期限内に補正すればその日が維持されます(第4.6条)。2024 Rules(HKIAC)hkiac.orghkiac.org
登録料も納付します。金額はHKIAC費用の解説と費用計算ツールで確認できます。
Statement of Claimは同時提出できますが義務ではありません。証拠が整っていれば重複を減らせます。資産移転の緊急性が高い場合は、十分だが過度に広げない通知を先に提出し、仲裁廷の日程に従って申立書を出す方法もあります。
通知の不備や登録料未納があると、HKIACは補正期限を設けることがあります。期限内の補正なら最初の受領日を開始日として維持できる場合がありますが、期限を過ぎると未開始と扱われ、再提出が必要になり得ます。
送達には二つの異なる日付がある
申立人はHKIACと被申立人へ通知を同時に送ります。HKIACの受領日は仲裁開始日、被申立人の受領日は通常30日間のAnswer期限の起点です。
元メールとヘッダー、添付一覧、送信記録、宅配便伝票、住所の根拠、追跡・署名資料、各被申立人の受領日を保存します。合理的努力後の最終既知住所への記録された送達が受領と扱われる場合もあります が、住所の出所、方法、記録によります。
Statute 第3条:受領の擬制
第3.1条は住所を、仲裁で通知された住所、契約上の住所、公的な住所、最終既知住所の順に並べます。第3.2条は、送達の試みを記録した合理的努力の後にのみ受領を擬制します。2024 Rules(HKIAC)hkiac.orghkiac.org
期間は通常、受領翌日から数え、途中の休日を含み、最終日が受領地の公休日または非営業日のときだけ翌営業日に延びます。時差と複数の受領者は別々に計算します。
提出前に仲裁廷、費用予納、保全方針を決める
仲裁人1名は一般に費用が低く日程調整も容易です。3名は経験の幅を広げられますが、費用と調整時間が増えます。合意がなければ、被申立人の通知受領後30日を経てHKIACが事件に応じて決定します。
HKIACは原則として当事者へ同額の費用予納を求めます。一方が支払わない場合、他方が立替えなければ当該請求が停止されることがあります。提出前に相手方分を一時的に負担できるかも検討します。
金額、当事者合意、特別な緊急性により簡易手続や緊急仲裁人を検討できます。ただし中国本土の口座その他財産を凍結 する目的なら、別途本土裁判所の保全を検討します。HKIAC仲裁前の中国本土資産保全を参照してください。
Statute 保全取決め第3条
受理前の保全措置は、本土裁判所が措置後30日以内に仲裁機関の受理証明を受領しない場合、解除されます。取決め条文(CICC)cicc.court.gov.cncicc.court.gov.cn
提出後:手続開始は請求の成立を意味しない
被申立人は通常、受領後30日以内にAnswerを提出し、管轄、請求と救済、仲裁廷構成、反対請求や相殺を扱います。その後、予納、仲裁廷構成、手続日程、主張書面、書証・証人、審理または書面判断へ進みます。
Answerがなくても申立人の自動勝訴にはなりません。手続は続行できますが、申立人は請求を立証する必要があります。和解も可能で、執行上の必要、条項、費用に応じて手続終了または和解内容を反映した仲裁判断を検討します。
強い通知を書く前に、この順序で開始する
条項全文を読み、正しい被申立人を特定し、請求を金額化し、証拠と資産情報をまとめます。送達先、仲裁廷方針、予算、保全の時期が整ってから提出・納付します。この順序は勝訴を保証しませんが、誤った当事者、日付、救済から始める危険を減らします。
まとめ
HKIAC仲裁は書式の記入から始まるのではなく、条項、被申立人、金額、証拠、送達、資産の確認から始まります。仲裁通知は手続を開始するだけで、誤った当事者、曖昧な救済、証拠不足を修復しません。中国本土の保全も同じ日程と予算に組み込む必要があります。
一つでも確認できない点があれば、提出前の一体的な検討の方が、開始後の補正より時間、費用、執行リスクを管理しやすくなります。
個別案件の検討には、契約と仲裁条項、紛争金額、サプライヤーの登記上の中国語社名、支払・違反の証拠、既知の資産所在地を整理してお問い合わせください。通常のフォームには概要のみを記載し、機密資料一式は送信しないでください。
参考資料
- HKIAC, 2024 Administered Arbitration Rules: https://hkiac.org/arbitration/rules-and-practice-notes/2024-administered-arbitration-rules/HKIAC | Hong Kong International Arbitration Centre2024 Administered Arbitration Rules - HKIAC | Hong Kong International Arbitration Centrehttps://hkiac.org/wp-content/uploads/2025/11/HKIAC_2024_Rules_05.mp4 The 2024 HKIAC Administered Arbitration Rules may be viewed in PDF format through the link…hkiac.org
- 香港電子法令・仲裁条例(Cap. 609): https://www.elegislation.gov.hk/hk/cap609%21en-zh-Hant-HK.pdfwww.elegislation.gov.hkHong Kong e-Legislationwww.elegislation.gov.hk
- 香港律政司・仲裁および中国本土との保全協力: https://www.doj.gov.hk/en/legal_dispute/arbitration.htmlwww.doj.gov.hkDepartment of Justice - Legal and Dispute Resolution Services - Arbitrationwww.doj.gov.hk
本稿は「HKIAC仲裁」シリーズ第1回です。機関の概要はHKIACとは何か、資産流出が懸念される場合はHKIAC仲裁前の中国本土資産保全をご覧ください。
よくある質問
Statement of Claimが完成していなくても、HKIACへ仲裁通知を提出できますか?
はい。2024年HKIAC規則では、Statement of Claimを仲裁通知と同時に提出できますが、義務ではありません。仲裁通知自体には、仲裁合意、関係契約、紛争の性質と金額、求める救済、仲裁廷構成の提案、資金提供の開示、送達確認などが必要です。同時提出の可否は、証拠の成熟度、保全の緊急性、費用を踏まえて判断します。
サプライヤーがメールや国際宅配便を受け取らなくても、仲裁は開始できますか?
仲裁開始日はHKIACが仲裁通知を受領した日ですが、申立人は被申立人にも同時に送達し、受領日を確認できる資料をHKIACへ提出する必要があります。合理的な調査後に最終既知住所へ送達を試みる方法が認められる場合もありますが、返送メール一通だけでは足りません。
HKIAC仲裁では必ず3名の仲裁人が必要ですか?
いいえ。当事者は1名または3名で合意できます。被申立人が仲裁通知を受領してから30日以内に合意できない場合、HKIACが事件の金額、複雑性、言語、専門性、費用、日程などを踏まえて決定します。
仲裁通知の提出前に、中国本土の資産凍結を申し立てられますか?
要件を満たせば可能です。香港を仲裁地とし、保全取決め上の適格機関が管理する仲裁であることが必要です。仲裁前保全が認められた場合、裁判所は措置後30日以内に仲裁機関の受理証明を受領しなければ保全を解除するため、仲裁通知、登録料、送達、補正、受理証明を一体で準備します。